Short2

□迷子は、いずこ
1ページ/1ページ



・SS
・意味不な散文












ベッドに腰掛けて、ただ虚空を見つめていた。
隣に座っている隼人はいつもより眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。見えてはいない。見なくても分かる。だって、彼にそんな顔をさせているのは私なのだから。

気分は酷く沈んでいた。
自分ではどうにも出来ない事態に身動きがとれなくなって、息苦しさを覚えた。

どうしていいのかわからない。けど現実だけははっきりと捉えていた。
目の奥はぐるぐるしているのに、視界はやけにさっぱりしている。混乱しているのか、案外冷静なままなのか。

違う。どちらでもない。
ただ、呆けているにすぎない。不安定であることは確かだけれど。



目線を下げると、ベッドについた隼人の手が映った。すると、今までからっぽだった私の胸に複雑な感情が押し寄せてきた。

鈍った頭は無意識に隼人を求めていた。

彼は今日、十代目と約束があるのだと言っていたはずだ。本当なら今頃彼は沢田君の隣で、いつもみたいにばかやってるはずだった。
だけど隼人はここにいる。私の家の、私のとなりに。
電話一本で、彼は駆けつけてくれた。

眉間の皺は平時以上。お決まりの軽口もなくて。
困っているのか、悔しがっているのか、怒っているのか、あるいは別の何かなのか、ひたすらに難しい顔を浮かべていた。

私は隼人に何を求めたのだろう。
彼はとても優秀な頭脳をお持ちだけど、それで打開できるような問題ではないことくらい初めから知っていた。けして彼に解決を望んだわけではないのだ。
ならば、私は隼人に慰めてほしかったのだろうか。
何も好転しないけれど、彼を巻き込むことでせめて一時だけでも救われたいと望んでしまったのか。

隼人は困っていて、悔しがっていて、怒っていた。
私の置かれた事態をどうにかできないかと悩み、何も手だてがないことを悔しみ、無力な自分に腹を立てていた。

隼人を呼んでしまえば、こうなることくらい分かっていたはずだった。
あまつさえ彼には大事な約束があったというのに、それすらも反故にさせてしまった。

大事な人を苦しめて、その上に成り立つ救いとはなんと滑稽か!


だけど私は確かに救われていた。
さんざん一緒に悩んでくれた。独りじゃない、誰かが傍にいてくれる安心感は大きかった。

もう十分だ。これ以上は、きっと望みすぎだ。



「…もういいよ。ありがとう、隼人。もう、平気だから…。」



笑いかけようとしたけど、どうやら無理らしい。引き攣った間抜け面を見せたくなくて、顔は伏せた。

これ以上、隼人をここに留めておくのは、過ぎた我が儘だ。
今ならまだ遅くない。沢田くんには私から謝っておこう。



「…バカ、どこが平気なんだよ」


くしゃりと頭を撫でられた。


「何も気にすんじゃねぇよ。俺が居たいから、ここに居んだよ。」


俺は、お前にそれくらいしかしてやれねぇ。とそっと抱きしめられた。
もう十分だよ。十分、傍に居てくれたじゃない。

「ありがとう」ともう一度口にしようとして、溢れだしたのは嗚咽だけだった。
子供みたいにわんわん泣いて、隼人に縋りついた。
今まで呆けていた分、一気に高まった感情が瓦解したようだった。


困っていたのは、悔しかったのは、怒っていたのは、私もおんなじだった。
身動きできない事態に苦しんで、どうにも出来ない歯がゆさが悔しくて、隼人を巻き込んでしまった自分の情けなさが腹立たしかった。
そして、それとは別に、彼が愛しくて堪らなかった。
隼人の優しさに縋ることが情けないとか申し訳ないとか、思うところは多くあったけれど、それら全てを凌駕するほどに彼が愛おしくて。


始まりは何処だったのか。
終わりは何だったのか。

零れる涙の意味が、自分でも分からなくなっていた。






Fin.


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ