朧霞に胡蝶蘭の囁き
□花枝に迦陵頻の舞―前編―
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吹く風は、もう暖かい。
その風に乗って散る数枚の狂い桜の花弁が、幻想的な雰囲気を醸し出す。
先刻からそわそわしている胡蝶には、関係の無い話だが。
「胡蝶、少し落ち着きなさい。」
母の時子に言われ、胡蝶は仕方なく畳に腰を下ろした。
今日、戦に行っていた胡蝶の夫、忍人が帰って来る。
先ほども雑兵が一人、帰還の報告にやってきたばかりだった。
座っているのにも関わらず落ち着かない様子の娘に、時子はくすりと笑った。
「忍人殿でしたら、心配はいりませんよ。」
「…はい」
胡蝶は晴れ渡っている青い空を見上げた。
胡蝶にとってはとてつもなく長かった一刻が過ぎ去った頃。
外が騒がしくなった。
それに素早く反応を示した胡蝶に、時子は苦笑いしながら言った。
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