街界編

□Ep8. 白昼夢の檻
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――同年 同日









「俺は、お前をけして拒絶しない」



不安と嫌悪と絶望の中、どんな理由だろうと……断言されたそれは、救いになる。

両頬に触れた温もりは、彼の歪だが純粋な願いとは違い、じんわりと優しく琉刻に染み渡る。


「……有り、難う…」


本人すらも無意識に出た、本当に小さな声の感謝。

綺羅は悪戯に成功した子供みたいに、からかう様に笑う。


「殺してくれる気になった?」

「無理だっつの」


呆れた様な答え。溜息混じりのそれに、綺羅は笑う。


「琉刻は、優しい」

「そんな訳がない。俺は人間じゃないからな」


異形は人間よりも、本能に従順に生きる。

それはある意味、利己主義の自分勝手にもなる事だ。





「でも、ヒトだろ?」





――それでも、感情はある。

ヒトを想う尊さも、ヒトを大切に想う愛情も、異形にだって当然の如く在る。

綺羅の言に琉刻は瞠目したのち、淡く笑む。



「でも、人間から見ればただの化け物だ」



小さく呟かれた、懐かしげな言葉。



「俺から見れば、お前はただのヒトだよ」



同じ人間なのに、普通じゃない人間。そんな人間の言葉に、琉刻は笑った。


だが不意にくらりと目眩が襲い、琉刻は頭を抱える。

その時になって漸く、琉刻は思い出した。


「……そうだ、」

「あ?」

「俺、お前の血吸ったんだった…」

「……は?」


琉刻の呆然とした言に、綺羅は首を傾げる。

だが琉刻の顔色が一気に悪くなったのを目敏く見付け、そして琉刻の言葉とを合わせて、思い出す。

そういやこいつ、初めて俺の血を吸った時……吐かなかったか?


「琉刻、もしかして吐きそう?気持ち悪い?」

「……いや、」

「いやじゃなくて、顔色むっちゃ悪いから」


顔を覗き込み、肩に手を置く。

それを横目に見てきた琉刻は、言いにくそうに言を紡ぐ。






「………眠い」





本当に眠たそうに手の平で瞼を擦りながら、琉刻は言う。

その予想とは違う答えに、綺羅は数秒間固まった。


「ね、眠い…の?」

「ねむい……」

「ちょ、琉刻軽く呂律が回ってない……起きろーー!!」


肩を掴み横から揺さ振れば、抵抗も無しに簡単に揺れ動く体。

閉じられた瞼と、寄せられた眉。頭を抱える手の平で擦る目尻。

本気でかなり眠たそうな琉刻は、それでも必死に眠気を醒まそうと頭を降る。


「……むり、ねる」

「なんでだよっ!さっきまでピンピンして人の事いたぶってた癖に!」

「いたぶってたからだろ…」

「疲れたとか言うなよ、やった側が!」

「お前が変なもんくっつけてるからだろうが、ぁあ?ふざけた事抜かしてんなよ」

「お前眠くなると口悪くなんの!?つか寝るなら此処で寝んなあ!!」






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