街界編
□Ep5. 悪魔の柩 前編
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僕が覚えてる両親の最期の姿は、まるで獣に切り刻まれたかの様にズタズタにされて殺されてた、血塗れの姿だ。
血塗れのお父さんとお母さん。
血塗れの部屋。
血塗れの家具。
血塗れの床。
そして、血塗れの僕。
僕は知ってる。両親を殺した人殺しが誰か。
酷いよね。
大好きなお父さんとお母さんを殺して、そいつはのうのうと生きてるんだ。
死にたく無いんだって。だから死なないんだって。
生きたいんだって。だから死なないんだって。
酷いよね。
僕は知らない。
――僕がどうして、大好きな両親を殺してしまったか、
その理由を、僕は知らない。
幼かった僕が、どうやって大人二人を切り裂いたか。
誰か、教えて欲しい。
――同年 05月04日 16時31分
柊 綺羅が鴉宮 琉刻の自宅に侵入し、ブラッティ・タウンの事を知った長い一日。
その日の放課後。
綺羅の親友、時任 棺は共に下校していた綺羅と別れ、小さく呟いた。
「……いいなぁ、」
綺羅には、守ってくれる人がいる。
綺羅は、何も知らなくていいんだもの。
何より、
「僕も守護印欲しいよ。綺羅と離れた途端この様だしなぁ」
棺は一人帰路に立ちながら、溜息混じりにぼやくのだ。
今、棺の近くには大量の黒い靄がある。
大量の、といってもそれはまるで固体の様に一つ一つ分かれ、棺に纏わり付いているのだ。
一つは1番小さく、棺の肩に乗っかる様に。
一つは地を這い、棺の足に纏わる様に。
一つは1番大きく棺の背より高い。それは、棺の背後をまるで棺に付いて行く様にゆっくりと、そしてズルズルと這う。
そしてもう一つ。
その棺の背後にいるそれよりも後ろに。
「――…うん、リアルに怖いよ」
棺は歩みを止めず軽く振り向きそれを見、小さく感想を漏らす。
それはズズ、ズズ、と鼻の頭辺りから上を覗かせコンクリートを這う頭。の、半分。
まるで水面から頭を出して泳いでいる様な感じで、頭が進んだ後には黒い波がたつ。
顔は髪がかかっていて、しかも黒い波が邪魔でよく見えない。
――それがよけいに怖い。
「……溺死でもしたのかなぁ。君達は靄だから怖くなくていいね、邪魔臭くて面倒だけど」
さらりと毒を吐き、棺は靄に話し掛ける。やはり返事は無い。だが、ふと微かに耳に触れた鳴き声。
「お前もしかして猫?今鳴いたよね、にゃーって。返事したのかな」
だが棺は、肩にある小さな靄を横目に見遣り、不思議そうに言った。
どうやらそれには返事は無かった様で、棺は苦笑する。
綺羅の側は好きだ。
綺羅自体が好きだし、自分を好いてくれているのが分かるから。
明るくて、優しくて、ちょっと短気で強引で。でも、綺羅の側は好き。安心出来るし、癒される気がする。
そして、邪魔臭い浮遊霊が寄らないのと、
ピクリと棺は何かに反応し、振り向く。
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