街界編

□Ep4. 愛しい君へ
1ページ/8ページ








日が沈み終えた頃、



「――さて、と…」



にこりと笑みながら不機嫌に呟く彼は何も持たず、暮らすアパートの前で考えていた。


何がムカつくって言ったら、全てだ。


この世界も、この街も、この世界のシステムも、この街のシステムも、この世界の支配者も、この街の支配者も、全て。



そして何よりも、彼に纏わり付く守護印が、あいつのモノだと言う事が。

そして何よりも、今は、












彼は、にやりと笑った。





「――ちょっと脅すだけならいいかなぁ」




楽しげに言えば少し歩を進め、鴉宮の屋敷方面に視線を向けた。



「……早く行かないと綺羅が帰って来ちゃうな」



呟くと、彼は――怜詩は一瞬にして姿を消した。










傲慢だと知っている。

無理だと知っている。

出来ないと知っている。

やってはいけないと知っている。

だけど、




――だけど、彼の心に、魂に、体に影響を及ぼせるのが、自分だけであって欲しい。


そして、今ならばそれが実行出来ると分かっている。


――だけど、



だけどそれを実行すれば、全てが無駄になる事を知っている。




欲しい、

だからこそ、

誰かに渡さなくては、

自分から離さなくては、



それは、

呆れ返る程にゆっくりと実行しなくては、意味が無い。



なのに、



彼が想像を超えたスピードで興味を抱いてしまった。

そして、それは既に執着の域に達している。

まだ彼の中で自分への執着の方が大きいが、それでも、予想外な程早い。







――夢限が使える駒を最大限有効に使った結果が、これ。











欲しいのに、

一度誰かに自分から渡さなくてはならないなんて、







「――……あーあ、虚しいなぁ」


小さくぼやくと同時に、怜詩はとんっと地に足を付く。


視界には、自分の敵意を察して黙っているこの街の支配者の息子であり、



それでいて、綺羅が執着しつつある男。






「――……誰だ?」


琉刻の問いに、怜詩はにこりと笑む。

そして、十分な間を空けた後、怜詩はその問いに答えた。



「――…綺羅の保護者、って言ったら分かるかな。初めまして、鴉宮の長男君」


その答えに琉刻は、その表情に驚愕を乗せる。

そして、黙ったままの琉刻に怜詩は続ける。


「ちょっと厭味を言いに来ちゃった。……聞いて、くれるよね?」



ギリ、と、琉刻は再び奥歯を噛み締めた。




あーあ、















――世界なんて、大嫌いだ。







.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ