街界編
□Ep4. 愛しい君へ
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日が沈み終えた頃、
「――さて、と…」
にこりと笑みながら不機嫌に呟く彼は何も持たず、暮らすアパートの前で考えていた。
何がムカつくって言ったら、全てだ。
この世界も、この街も、この世界のシステムも、この街のシステムも、この世界の支配者も、この街の支配者も、全て。
そして何よりも、彼に纏わり付く守護印が、あいつのモノだと言う事が。
そして何よりも、今は、
彼は、にやりと笑った。
「――ちょっと脅すだけならいいかなぁ」
楽しげに言えば少し歩を進め、鴉宮の屋敷方面に視線を向けた。
「……早く行かないと綺羅が帰って来ちゃうな」
呟くと、彼は――怜詩は一瞬にして姿を消した。
傲慢だと知っている。
無理だと知っている。
出来ないと知っている。
やってはいけないと知っている。
だけど、
――だけど、彼の心に、魂に、体に影響を及ぼせるのが、自分だけであって欲しい。
そして、今ならばそれが実行出来ると分かっている。
――だけど、
だけどそれを実行すれば、全てが無駄になる事を知っている。
欲しい、
だからこそ、
誰かに渡さなくては、
自分から離さなくては、
それは、
呆れ返る程にゆっくりと実行しなくては、意味が無い。
なのに、
彼が想像を超えたスピードで興味を抱いてしまった。
そして、それは既に執着の域に達している。
まだ彼の中で自分への執着の方が大きいが、それでも、予想外な程早い。
――夢限が使える駒を最大限有効に使った結果が、これ。
欲しいのに、
一度誰かに自分から渡さなくてはならないなんて、
「――……あーあ、虚しいなぁ」
小さくぼやくと同時に、怜詩はとんっと地に足を付く。
視界には、自分の敵意を察して黙っているこの街の支配者の息子であり、
それでいて、綺羅が執着しつつある男。
「――……誰だ?」
琉刻の問いに、怜詩はにこりと笑む。
そして、十分な間を空けた後、怜詩はその問いに答えた。
「――…綺羅の保護者、って言ったら分かるかな。初めまして、鴉宮の長男君」
その答えに琉刻は、その表情に驚愕を乗せる。
そして、黙ったままの琉刻に怜詩は続ける。
「ちょっと厭味を言いに来ちゃった。……聞いて、くれるよね?」
ギリ、と、琉刻は再び奥歯を噛み締めた。
あーあ、
――世界なんて、大嫌いだ。
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