土銀テキストVer2
□39. 絶対
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「ちょっと待てって、土方、おーい」
「うるせぇ。もう知るか」
「拗ねンなよ」
「拗ねてるんじゃねーよ!呆れてるんだよ自分に!」
「自分に?」
「ああそうさ、自分に、さ…」
土方は苦々しく呟いた。
銀時が遅れてくることなどわかりきっていた。映画を見ようなんて言ったところで、お互いに好みはまったく違う、映画に期待するよりも、来た時間に合わせてどこか別の場所に行くのが良いはずだ。それでいいと実際土方は思っていたし、それでいいはずだったのだ。
この映画でなければ。
少し楽しみにしていたのだ、実は。
実は、ではない。
楽しみだったのだ。
銀時が見たいというから前売りを用意して、銀時が行くというから日にちを抑えた。
一人で見ておくんだったと思うのは今日が最終日だから。
そして。
その最終上映時刻になっても銀時が現れなかった、から。
「なんだよ」
「何でもねえよ」
銀時は土方に不親切だ。
恋人、という立場になっても妙に土方を侮っているようなところがあって、それが沖田を思わせて酷く不愉快になる。尊敬をしろなんて思わない、ただ、恋人であるというのなら、少しくらい期待してもいいじゃないか。
それすらも、許されないのだろうか、自分には。
「もう、期待なんかしねえ」
「何言ってんのって。見ようぜ映画」
「最終だろ、今のが」
「今日はこのあとレイトショーがあんだろ」
「何?」
袖を引っ張られて、土方は眉根を寄せて振り向いた。確か今日が最終日のはずだ、最終日は夕方の回で終わるはず。
前売りの表記を確かめれば、銀時は手にしていた新聞をばさりと土方の目の前に広げる。
「これ。ほら。ロングラン決定だって。かぶき町シネトークでも今週末まで上映するって書いてるだろ?」
「マジでか」
「さっきの回も間に合わなくもなかったんだけどよ、どうせだったらちゃんと予告からみてえから…」
「連絡ひとついれずにか」
「しょーがねーじゃん、携帯忘れたし」
「・・・・・・・」
悪びれることもしない。
悪びれようともしない。
「機嫌なおせよ、な?映画見ようぜ、たまにはデートらしいデートってのも悪くねえよ」
「デート?」
「デートだろ。そんつもりでいたけど俺」
さらりと言って。
土方を喜ばせる。
それが手管だとわかっているのに。
「あとこれ」
「あ?」
「どーせ泣くんだろ。持ってきた」
手ぬぐいが一本。万事屋の染め抜きで。
ほら早く、と促されて。
土方は、気まぐれな恋人に振り回されることが、思いの外性に合っている気がしてうんざりとしつつ、銀時が土方の袖ではなく、手を握っていることに気づいて、唇を歪めた。
映画は、泣けて。
銀時はあきれ顔。
おわり