土銀テキストVer2

□37. 在りし日の少年
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 過去。
 過去を知りたいと思うことは、くちづけの瞬間にいつも脳裏を過ぎる虚無に良く似ている。
 土方は、あいかわらずの反応をかえす恋人のくちびるが、ひどく荒れていることに気づいて息を吐いた。

「どうした、それ?」
「最近寒かったし」
「寒かったが。荒れるほどでもねえだろう」
「リップクリームのひとつもね、あればいいんだけどそういうのってあんまりねえ」
「何でだ」
「食うのがいるから」
「ああ」
「冬場って手荒れもするしなー…雪は嫌いじゃねーけど、江戸は寒いよな」
「そうか?」

 武州の方が冬は寒い。酷く寒くて凍え死ぬんじゃないかと思うこともしばしばだ。近藤の道場は寒風吹きすさぶ場所で、今にして思えば貧乏だったのだ。

「おまえ、どこの生まれだ?」
「ん?江戸じゃないよ。もすこし、西」
「ふうん?」
「だから寒さに弱いわけ。そういやおまえって北国出身だっけか」
「ちげーよ、武州。こっからすりゃ北だろうが」
「ふーん」

 だからか、と独りごちる銀時は、土方が触れた場所に指を伸ばす。指先も逆剥けしていて血が滲んでいる。軟膏が必要だ。

「イテ」
「薬」
「いらねーって。それより毛布買ってよ、どうせくれるんだったら」
「は?」
「定春に取られちまってさ、去年。俺結構薄っぺらいので寝てるんだよ。この冬乗り切れる気がしねー」
「甲斐性ねえな」
「いいの。恋人にあんだから。期待してるぜ副長さん」
「どう考えてもタカリだろそりゃ…」

 万事屋の暖房も、土方が来なければスイッチがはいらない。エアコンではなく未だに石油ストーブ、灯油缶を買う金すらないと嘆く銀時を好きになったのは間違いだっただろうかと時折悲しくなってしまう。

「毛布、な」
「ん。あと布団も?」
「布団?」
「おまえの。こんな頻繁に泊まりにくるんだったら、いい加減もういっこ布団いるだろ」
「は、」

 寒、と呟いて、銀時は土方の腕にくるまるようにする。隊服では彼を包み込むなんて芸当が出来ないが、土方は苦笑しつつ彼を巻き込んで、抱きしめる。

「泊まりに来てもいい、ってか」
「つうか。寝るときに布団取り合って風邪引くの嫌だし」
「ふん」
「どうせならぬくぬく寝たいからな。………ホットカーペットでもいいぞ、部屋丸ごとの」
「やっぱりタカリじゃねーか」
「愛人って言ってくんねーかな」
「………」

 土方はため息をつく。
 どちらにせよ、惚れているのは彼のほうだ。

「愛人なららしくしやがれ」
「あっじゃあ恋人で」
「恋人らしく」

「大好き土方」
「棒読みじゃねえかぁぁぁぁぁぁ!」





 おわり

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