土銀テキストVer2

□35. 噂
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 土方は、噂を信じる方では決してない。
 むしろ、噂を信じなければならないほど暇でもない、流布した情報としてそれらを活用することはあっても、それをあえて収集する意義を感じられなかった。

 少し、前までは。

「だから。何でそういうの信じるわけ?俺がどこでなにしてよーとテメーに関係ねえじゃねーか!」
「テメーが目立つからだろうが!」
「でもな、普通にしてりゃ別に目立ちもなんともしねーんだよ!天人がいなかったころはそりゃこの髪は目立ってたよ、目立ってたけどな、いまじゃ珍しくもなんともねーんだよ!」
「うっせえな。だったら染めろ」
「むちゃくちゃ言うよ、ったく」
「テメーが悪い」
「おめーだろ!」

 くだらない喧嘩はファミレスで。
 
 ウエイトレスや客が遠巻きにしている。それに気づいて、銀時はどかっと椅子に座り直す、土方もいきり立っている自分を恥じて、辛うじて残っていた煙草をくわえた。

 喧嘩の理由は簡単だ、山崎の持ってきた書類に、銀時らしき後ろ姿がうつっていた。宇宙海賊春雨配下と言われる男たちを相手に大立ち回り、その時彼は万事屋からでていない、と土方に言っていたにもかかわらず、だ。

「じゃあコレ誰だよ」
「しらねーよ!」
「テメー以外にいんのか、こんな目立つ頭」
「だーからーー」
「テメーだろ、これ」
「何でそんな言い切れるかね」

 呆れた物言いに、こちらも呆れてしまう。
 
 わからないと思っているのだろうか、銀時は。
 土方が、どんなに遠くからでも銀時を見つけてしまうことを。
 写真で見まごうわけもないほど、彼を知ることを。

「好きな奴の後ろ姿、見分けられなくてどうすんだ」
「あ、言っちゃったよ」
「だからこれはテメーだ」
「・・・ちげーよ」
「何だと」
「違うってことにしといてよ」

 言うなり、銀時は写真を取り上げて、ぴりりと縦に引き裂いた。

「おい!」
「俺はこの日外に出てないし。こんなやつらしらねーし」
「テメェ、」
「知らない」
「・・・・・」

 土方は歯がみする。

 いつだって銀時はこんなふうにはぐらかす。
 はぐらかして、真顔で土方を拒否する。


「わかった」
「そ?」
「じゃあテメーは白夜叉じゃない、ってんだな」
「はあ?」
「・・・わかった」

 土方は立ち上がって、伝票を掴んだ。

「おい、」
「テメーは食ってから出ろ。俺は屯所に戻る」
「・・・」

 土方は、伝票を握りつぶして、舌打ちした。

 それはひどく、苦い音だった。





 おわり

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