土銀テキストVer2
□31. Brand
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「別れよっか?」
「あ?」
「別れよっかーぁ」
「何をぼけてんだ」
腕の中で呟いた瞬間、土方が文字通り硬直する。
思い通りの反応を引き出せたことに満足して、銀時はうつむいて見せる。
「本気」
「………おい」
「ちょっとね。本気」
「おい!」
思いもよらない言葉だったろう。甘えて拗ねて抱かれてくちづける、そのしっとり湿った肌を合わせる行為にも慣れた夜の戯れ言は、睦言と呼べなければ意味がない。
なのに。
「どういうつもりだ」
「どうもこうも?………」
「いつから考えてた」
「んー…」
声が、低くなる。
煙草に手を伸ばした土方の指先で、フィルターごとへし折られる煙草。仕草はとうのむかしに冷静さを欠いていて、それは肌の温度が妙に低くなったことからも。
わかる。
「ついさっき」
「あん?」
「……そういう反応してくれてよかった」
「おい!」
くす、と笑って、銀時は彼の腕の中伸び上がる。
似た身長のせいで、抱き寄せられるには少々体格が不格好。それを無理矢理足を曲げて。
鎖骨のあたりに頭を寄せる。
「試しただけ。冗談」
「…………………」
「俺のこと好きだね、マジで」
「ああ」
「好きだねぇ」
「………別れるなんて言うな」
「遅ッ」
ぎゅっと。
強すぎる抱擁に銀時は咳き込む。
「おい、」
「言うな………」
泣きそうに震える唇。冗談、と言うのが早すぎたかと思いながらこくりと頷いてやる。耳の向こう、異様に早い鼓動は、土方の心音。
幽霊騒ぎとどちらが肝が冷えたろうか、とつまらないことを銀時は考える。
「テメェが好きなんだよ」
「ああ、うん」
「だから」
「ゴメン、悪かったよ」
試したかったのは、彼の反応ではなくて。
自分の気持ちだったのかもしれないと銀時は自嘲する。土方の腕の中に収まる自分が、抱かれることに慣れた甘えを見せていていいのかと。
愛されていて、いいのかと。
思うこと。
「はなさねぇ」
「………あ、うん」
「銀時」
「あ、う……?」
突然名を呼ばれて。
今度は銀時が硬直する。
「好きだ」
「……うん、」
「好きだ」
わかってる、と。
言うより早く唇がふさがれた。
別れない。
別れてやらない。
おわり