□ぐるぐる巻きの手の彼
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ぐるぐる巻きの手のカレ



 蝙蝠が両手にやけどを負った。
 どうやら原因は川獺にあったようだ。
 今蝙蝠は、川獺に甲斐甲斐しく世話をされている。

「あのよ、親友」
「なんだよ、親友」
「包帯巻きすぎじぇねぇ?」

 蝙蝠は川獺に自身の両手を見せる。
 ・・・なんと言うのだろうか、指の形が見えないくらい包帯が巻かれている。
 蝙蝠の両手はまるで棒のような状態になっていた。

「これじゃ、生活できねーんだけど?」
「出来ねーよーにしてんだよ。お前、絶対無理するからな」

 川獺の言葉に蝙蝠は高い声できゃはきゃは笑った。

「しねぇって。両手は大事な商売道具なんだぜ? 無理して使い物にならなくするやつがどこにいるんだっつーの」
「この前悪乗りして傷口を広げたのはどこのどいつだよ」
「あれは刀傷だろーが。それに蟷螂がいいリアクションしちゃうもんだからさ」
「気持ちはわからんでもねーけど、駄目だ。禁止」
「へいへいわかったから、この物が持てない状況何とかなんねぇの? 俺便所にもいけないんだけど?」
「俺が手伝ってやんよ」
「お前が?」
「そうだけど?」
「・・・」
「・・・」

 自分が言った事の重大さに気づき、川獺は顔を赤くする。
 言った本人、深い意味はなかったようだ。

「し、しょうがないだろ!? 手伝わないとできねーじゃん!」
「きゃはきゃは、そうだけどよ」

 焦る川獺に蝙蝠はにやにやと笑う。

「川獺のすけべ」
「うるせぇっ!」
「エロイ事すんなよ」
「・・・」

 『するかっ!』と言いきれない川獺だった。
 その代わり、別の人物の声が聞こえた。

「させませんよ、そんなこと」

 なぜか押入れの中から喰鮫が登場してきた。

「あの、ここ俺の部屋なんだけど、何でお前がいるわけ?」

 蝙蝠はごく普通の質問をした。
 喰鮫は誇らしげに押入れから出てきながら答えた。

「愚問です蝙蝠。私はいつも貴方の側にいるのですから!」
「微妙に答えになってねーよ」
「それってストーカーっていうんじゃ・・・」
「そんな言葉、この時代にはありませんよ川獺」

 そして喰鮫は包帯がぐるぐるに巻かれた蝙蝠の手をそっと握る。

「安心しなさい蝙蝠。川獺が危険な事をしないように私が一日中見守ってあげます。そうっ・・・! 着替えの時もお風呂の時も厠の時もっ!」
「ろだ険危が方の前お」

 声と同時にクナイが喰鮫に向かって放たれる。
 喰鮫はそれをよけた。
 蝙蝠、川獺、喰鮫は天井をみた。
 白鷺が天井から覗いていた。

「白鷺、俺の部屋の天井でなにやってんだ?」

 蝙蝠はまた至極普通の質問をした。

「りよとこなんそ」

 無理やり話題を変えられた。
 白鷺は天井から降りて来て綺麗に着地する。

「り通う言の鮫喰、獺川ぞーねせわあはに目な険危を蝠蝙」

 白鷺は川獺を睨んだ。
 川獺もにらみ返す。
 これが漫画ならバチバチバチッと火花が散ってそうなくらいのすごい睨みようだ。

「なー俺腹が減ったんだけど」
「そうだな、飯にすっか」

 蝙蝠の一言で二人は睨むのをやめる。
 立ち上がり、みなで食堂(あるという事にしといて下さい)へと向かう。

「蝙蝠、私があーんして食べさせてあげます」
「いらねーよ」
「キモイ」
「ね死」

 三人に一刀両断される喰鮫。
 でもめげない。

「残念だけど、俺の世話は川獺がやるってことになってるからさ」
「ずるいですよ、川獺」
「ぞだうそ」
「いや・・・蝙蝠は俺のせいで怪我しちまったようなもんだからよ」
「そういうこと」
「ドジですね川獺」
「ろめや忍」
「・・・」

 川獺はちょっとめげそうになった。




 そして夜


「獺川、ならか殺らたし出を手に蝠蝙」
「そうですよ。いいですね、いいですね、いいですね、いいですね」

 川獺に念を押してから喰鮫と白鷺は自分達の部屋へと帰っていった。

「んじゃ蝙蝠、いくか」
「別に足は怪我してねーんだから送らなくてもいいんだけど?」
「布団敷かないと駄目だろうが」
「あ、そっか。忘れてたぜ」

 きゃはきゃはとわらいながら、蝙蝠は川獺と共に蝙蝠の部屋へと向かった。



 川獺は蝙蝠の布団を敷いている為、蝙蝠は暇そうに動いている川獺を見ていた。
 そしてポツリと呟いた。

「そんなに大切な物だったのかよ、あの鎖のカケラ」

 川獺は驚いた顔で蝙蝠をみた。

「お前、覚えてねぇの?」
「は? なにを?」
「・・・いや、忘れてんならいい」
「なんだよ、気になるなー。ま、いっけど。やけどしてまで火の中から取り出したかいがあったな」
「そうだな。感謝してるよ」

 川獺が布団を敷き終わる。

「ほら、できたぞ。ご主人様。さっさとおねんねしな」
「ご主人様にその言い草はねぇだろ」
「うるせーな」
「『ご主人様、ベットメイクが終わりました。お早めにお休みください』このくらいは言わねーと」
「さすが『メイドの蝙蝠』・・・って、時代を先取りすぎだろ」
「きゃはきゃは、んじゃ寝るか。ご苦労ご苦労、我が僕(しもべ)」

 蝙蝠がぐるぐるに包帯が巻かれた手で川獺の頭を撫でる。
 川獺は複雑そうな顔をする。

「その手じゃ格好つかねーな。僕は満足しないぜ」
「わがままな僕だな」
「さらなる褒美を要求するぜ。鎖のカケラの事を忘れた事もふくめてな」
「な、なにをねだる気だよ・・・」

 川獺は蝙蝠の口に軽く口付けをした。

 川獺はすぐに口を離した。
 蝙蝠はぽかーんとしている。

「じゃ、また明日な」

 川獺はそういって部屋を出て行った。





 部屋から出てきた川獺は軽く呟いた。
 
「これくらい、いいよな」

 そして上機嫌で自分の部屋へと帰って行こうとして・・・


 シュッ


「おわぁっ!」

 川獺めがけて手裏剣が何本も飛ぶ。
 川獺はそれらを必死でよけていく。
 手裏剣を投げているのは、白鷺と喰鮫だった。

「にのたっ言となるすをけがけぬどほれあ・・・ぶっ殺す!」
「ふふふ・・・いけませんね、いけませんね、いけませんね、いけませんね」
「お、お前ら! みてたのかよ!? どこから!? 気配を感じなかったぞ!?」
「甘いですね、甘いですね、甘いですね。甘すぎてゲロ吐きそうですよ」
「いなく薄は愛のへ蝠蝙のら俺どほるれらとさを配気にきとご前お」

 本気で手裏剣をあてにいく白鷺と喰鮫。
 いくら二人とも普段手裏剣を愛用していなくとも、そこは腐っても忍。
 照準は限りなく正確だ。
 それを間一髪でかわす川獺もなかなかだ。

「忍法渦刀・・・」

 らちがあかずに喰鮫が鎖をひっぱり腰にある左右の刀をぬいた。
 
「いやいやいや、ちょっと、それはやばいでしょ! 白鷺! 喰鮫をとめろよ!」
「れ殺、鮫喰」
「うそぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」





 鳳凰と海亀は二人でなにやら難しい顔で話し込んでいた。

「最近怪我や武器の消費が激しくてな・・・はっきり言えば赤字なのだ・・・海亀どの、どうだろう?」
「ふむ・・・みなの給料を削るのもしのびないしのう・・・」

 二人が頭を抱えて悩んでいるとなにやら男の悲鳴が聞こえてきた。

「なんだろうか?」

 鳳凰は席を立ち、障子を開けた。
 開けた先には必死で逃げている川獺と川獺を追いかけている喰鮫と白鷺がいた。
 三人が通った後は台風が過ぎ去ったような悲惨な状態だった。
 ただでさえ費用がないというのに、また出費が重なった。
 鳳凰は苛立ちを押し殺した声で海亀にいった。

「・・・海亀どの、赤字は川獺と白鷺と喰鮫にうめてもらおう」




 そしてしばらく、三人は任務ばかりで里には帰ってこなかった。





 蛇足

 そこには蝙蝠の世話をする蟷螂の姿があった。

「なんで蟷螂が俺の世話をしちゃってるわけ?」
「私が知るか。頼んで行ったあの三人に聞け」
(蟷螂どのが一番安全圏だからだと思う・・・)

 蟷螂の様子を見に来た蝶々は思った。
 同じく蟷螂の様子を見に来た蜜蜂は言った。

「けど大変ですね。厠とかどうしてるんですか?」
「そ、それは・・・」

 蟷螂は顔を赤くする。
 つられて蝙蝠も赤くなる。

「馬鹿! 何赤くなってるんだよ!!」
「いや・・・すまない・・・」
「あやまるなっ!」

「・・・」
「・・・」

 そんな二人の様子を蝶々と蜜蜂はただ見ているしかできなかった。

(蜜蜂のやつ・・・固まってるぞ・・・)



 思わぬ伏兵に蝙蝠争奪戦がさらに加熱するだろうな。
 そう思って蝶々はため息をついた。


おわり

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