捧げモノ
□夏、真っ盛り
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みーん みーん みーん
みーん みーん みーん
みーん みーん みーん
みーん みー…ドスッ
蝉の鳴き声は何かが刺さる鈍い音と共に止んだ。
「‥‥蝉くらい鳴かせといてやれよ」
「‥‥‥い暑」
†夏、真っ盛り†
「そりゃ、あーんな如何にも夏っつー鳴き声だと腹立たしくなるのも分かるってもんだけどよ…」
蝙蝠は完全に開け放った部屋の真ん中で寝転がったまま、視線だけを白鷺に向け呆れた口調で言葉を紡ぐ。
「そう片っ端から苦無の餌食にしなくても良いんじゃね?」
蝙蝠のいう通り、障子から向こうに見える木々には苦無が至る所に刺さっている。
蝉付きで。
縁側に座りぼんやりと外を見やっている白鷺が再び苦無を構えた。
「…たっがや来たま」
白鷺の視線の先には今飛んできたばかりの蝉。
木に止まった途端に鳴き始める。
カナカナカナカナカナ
カナカナカナカナカナカ…グサッ
「蝉の鳴き声にこだわりはねぇんだな」
何匹目になるか分からない、哀れな蝉を横目に蝙蝠が言う。