捧げモノ

□夏、真っ盛り
1ページ/6ページ




みーん みーん みーん


みーん みーん みーん


みーん みーん みーん


みーん みー…ドスッ



蝉の鳴き声は何かが刺さる鈍い音と共に止んだ。



「‥‥蝉くらい鳴かせといてやれよ」

「‥‥‥い暑」



†夏、真っ盛り†




「そりゃ、あーんな如何にも夏っつー鳴き声だと腹立たしくなるのも分かるってもんだけどよ…」


蝙蝠は完全に開け放った部屋の真ん中で寝転がったまま、視線だけを白鷺に向け呆れた口調で言葉を紡ぐ。


「そう片っ端から苦無の餌食にしなくても良いんじゃね?」


蝙蝠のいう通り、障子から向こうに見える木々には苦無が至る所に刺さっている。
蝉付きで。


縁側に座りぼんやりと外を見やっている白鷺が再び苦無を構えた。


「…たっがや来たま」


白鷺の視線の先には今飛んできたばかりの蝉。
木に止まった途端に鳴き始める。



カナカナカナカナカナ

カナカナカナカナカナカ…グサッ




「蝉の鳴き声にこだわりはねぇんだな」


何匹目になるか分からない、哀れな蝉を横目に蝙蝠が言う。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ