ショートストーリー

□あの時の君に
1ページ/7ページ

「あれ…」
いつものように駅のホームに着くと、そこは人でごった返していた。
『人身事故のため、上下線とも遅れが出ています』
そんなアナウンスが流れる。
”そっか、電車が遅れてるからか”そう納得して
私、笹川深羽(ササガワミウ)はいつもの場所で電車を待つ。
『まもなく電車が参ります』
そんなアナウンスを聞いて時計を確認する。
時間はあんまりずれてないみたいだ。
「良かった」
と、小さく小さく呟いた。
車内に入り、なんとか入り口のすぐ横にすっぽり収まる。
「はぁ‥」
と安心したのもつかの間で、車内は満員。
なんとか電車の扉が閉まり発車する。
「ぅ‥‥」
人が多いことと、走る電車の影響により私は人に潰されている。
もともと小柄だから尚更だ。
”圧死するかも…”
と、内心本気で思っていると不意に苦しさが消えた。
「ぇ‥?」
とっさに顔を上げるとそこには私と同じくらいの年の男の人がいた。
よく見ると、どうも男の人は私をかばってくれているようだった。
「?」
今の状況が理解できない私は疑問符を浮かべて彼を見つめる。
すると突然彼が笑いかけてくる。
慌てて私はぺこりと首だけでお辞儀をする。
その後彼の方が不思議そうな顔をしていたけど…
それ以上は何がなんだかわからない上に、何となく気まずく、
降りる駅まで下をむいていた。
私が降りる駅と同じ駅で彼が降りるのを確認して、私は慌てて追いかけた。
「あのっ!」
その声に男の子が振り返って、私を見て驚いていた。
「あの、さっきは‥ありがとうございましたっ」
「あぁーいや別に…」
「でも、私本当に圧死するかと思ってた所で‥それですごく助かって‥」
そう必死に伝えてみると何が可笑しかったのか笑われた。
「あ、ごめん。いやあんまりにも必死だったから」
といいつつも笑い続ける彼。
「当たり前ですっ!本当に感謝しているから、それはちゃんと伝えないと…」
「あぁ、うん。君がお礼をいいたいのはすごく伝わったよ。
でもさ、俺のは恩返しのつもりだったから。」
と、目の前でまだ少し笑っている彼はそんな事をいう。
「恩返し…?」
「そう。知りたい?」
「はぃ」
「でも、今は学校に遅れるからな…。
そうだ帰り迎えにいくから、門の所で待ってて」
そう言い残して彼は走っていってしまう。
「門って…あぁ、そっか。あの人男子校の‥」
そう、彼の着ていた制服は私の学校の側にある男子校の制服なのだ。
私は共学の学校。
「制服を見ていったのね…きっと。」
そう呟いて私も学校に向かう事にした。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ