書棚〜非版権〜
□Fake
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―今になって思えば、あの時すでに抱いていたのかもしれない…
「ねぇねぇ、兄ちゃん」
「ん?」
「“キス”って何味がすんの?」
子供らしく突拍子もない質問に驚きながらも、兄ちゃんは答えを教えてくれた。
その、実態を以て。
「味、わかったか?」
味は無かった。
けど、温かくて気持ち良い…綿菓子のような甘ったるさは、子供心にも感じたんだと思う。
そして…それは俺が望んでいた“キスの味”だった…
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「はぁっ…ん…んっ…」
「…ん…ふ…っん…」
気持ち良さそうに瞳を閉じてキスを受け入れている俺の兄・健一は、社会人3年目で大学病院の小児科医。
職業柄なのか、大学生になった俺の事も子供のように心配してくれる、優しい兄だ。
「可愛い…」
「…はぁっ…っ…孝宏…」
男らしい性格とは反対の少し華奢な体格と長めの髪が中性的な雰囲気を醸し出していて、子供の頃から女の子にも男にもモテていた。
勿論、今だってバリバリ現役だ。
俺も負けてはいないけど…
ただ、心を掴まれるような女の子には出逢えなかった。
「兄ちゃん…続けて良い…?」
「ぇっ…?」
…この人以上の存在が居るとは、到底思えないけどね。
「キスの次、練習して良い?…」
「…良いよ…孝宏…」
偽りの失恋を重ねる度に繰り返される、この時間が俺の本当の目的だった。
ドライブ、映画、遊園地…何処に居ても誰と居ても、頭の中に居るのはただ一人だけ。
「兄ちゃん…」
「たかひ…ろっ…ぁぁっ///」
ゆっくりとベッドの上に押し倒しながらシャツのボタンを外して、露わになった胸元に指を這わせる。
耳から首筋にかけて啄むようなキスと舌先で犯せば、徐々に赤みが差していく白い肌。
絡められた腕を感じて顔を上げた先には、唾液に濡れて光る艶やかな口唇があった。
「はぁっ…ぁっ…」
…これも演技だろうか。
練習という口実に付き合って、感じている振りをしているだけなのか。
それとも…なんて贅沢な希望を抱いては打ち消す。
だって、これは…
…欲に塗れたフェイクラブ…―