どうしたどうしたテツタ君珍しくそんな神妙な顔して。ぷっ、笑ってい?
奴は立ち上がり拳を掲げ言った。
「今から作戦会議を始めようと思います!!」
作戦会議@
本当こいつは何をするか予測つかなくて面白い。て、コレこの前も言った気がする。
「ワーワーぱちぱちー。」
とりあえず気のない返事を返した。
「棒読みで言うぐらいなら言わないの。」
「はーい。」
ら、ナナに怒られた。
さて、今日は珍しく放課後ではなく昼休み。昼ご飯片手に隣の教室に俺たちは集まっていた。もちろんナナと食事を共にするためだ。
最近放課後は野球愛好会らしく筋トレに励んでいる、主にテツタのみが。
日中は行動を共にすることが増えた俺とテツタだが、基本温度差が激しく(主にテツタがしゃべり俺が流す)、割と(ほぼ)ナナがいないと相手にされないことに気付いた奴は、ナナを間に挟むことを学んだ。
正直なところ、学習能力というものがオプションとして奴の生存本能に存在していたことが、微笑ましい。
「我が愛好会は、現在たった3名の部員で成り立っている。」
前言撤回。付け上がらないように黙らせる必要がありそうだ。
「待て。何当然のようにナナも含んでんのお前。」
きょとんとするナナも可愛らしい。
きょとんとマネをするテツタは憎らしい。
「だって入ってくれるだろ?七瀬。」
「なに言っちゃてんのだってじゃないし。ナナを巻き込むな。」
「いいよ。」
「「いいの!?」」
思わず、テツタと一緒に勢いよく振り向いてしまった。間にいる七瀬は何とはなしに、ご飯に手を付け始めている。
ちなみに余談だが、彼の昼食はお兄さんの手作りだ。
すごくどうでもいいが、男の手料理とは思えない程の完成度に若干引くが、本人達はまったく気にしていないためなかなか告げられないでいる。
「ちょっナナ!なに言って…」
「よし!さすが七瀬。そうと決まったら本題に戻ろう。」
と、ナナの肩に両手を乗せるテツタに殺意が湧いた。
「…………おい、待てっつってんだろ?」
「そ、そそんな本気でキレんなよ!」
「あん? まずその汚い手、離せ。」
「ぎゃーこの子どうにかしてー!!」
とにかく奴の手を叩き落とす。
そのまま胸倉に掴みかかろうとしたところで、静止をかける声は聞こえた。
「もう!落ち着こうよヒロ。」
「うん、ナナは黙ってよーね。テツタちょっと顔貸しな?」
「うぎゃーー!」
…聞こえたが聞こえなかったことにして、その勢いのまま教室からテツタを連れ出そうと引きづる。
「……まったくしょうがないのに。『見つかるなよ』って見つかったら手遅れだってわかってたんでしょ?」
(だってヒロがそうなように、僕だって渡瀬みたいな人を待っていたんだから。)
そんな七瀬のつぶやきも聞こえた気はしたが、やはり無視することにした。
「待って七瀬!もうちょっと本気出して助けて〜!!」
そんな昼休み、逃げ惑う渡瀬を皮切りに第一回作戦会議は終了した。
「……はぁ相変わらずうちのクラスの馬鹿共は騒がしいなぁ。」
ざわつく教室のすぐ脇、ちょうど授業帰りの柏木教諭が居合わせた。
「そう思わないか、及川。」
そして話し掛ける相手は、教科係で連れ立っていた他クラスの及川という名の生徒。
「……何故俺にふるんですか。」
「いや、熱心に眺めているようだったから。」
「それは柏木先生の気のせいです。俺は何も見ていませんし、興味もありませんから。」
「ふーん。お前あれか、好きな子にはいじわるしちゃうタイプか?そういうの先生好きじゃねーな。」
「柏木先生の趣向にも興味ありません。これ運ぶだけなら先行ってます。」
教材の入ったダンボールを持ち直すと、返事も聞かず及川はその場から足早に立ち去って行った。
「あっそ、よろしく頼むわー。」
その割に、睨みつけるような視線を送っていたような気がしたんだけどな。とか思っても言わないでおく御年三十路手前の柏木教諭であった。