馬鹿はホント碌なことしない。でも、時々面白いことするんだよね。
無駄にいい顔しやがって
それは業後の事だった。
うるさいのが、うざい事を言い出したのは。
「これを見ろ!!」
渡瀬テツタが、ババーンと目の前に掲げてきたのは一枚の写真(何故か丁寧に引き伸ばされたもの)だった。
「…何これ。」
それが素直な感想。そもそも、今まさに帰ろうとしている人間のカバンをもぎ取って床に放り投げ、その隙に前方の道を塞ぎ仁王立ちする人間の話をまともに聞く気は毛頭ない。
だがいつになく真剣な顔をしているテツタに、…やはり通常時よりも相手をしたくない気持ちでいっぱいになった。
「是非に勧誘したい奴がいるんだ。」
なるほど、それでこの写真。何の証明写真かと思ったよ。というかこれ証明写真だろ、一体どうやって手に入れたこれ。
そこには一人の気難しそうな顔を全面に出して写された、中学もしくは他校の制服を身に着けた同年代の少年がいた。
何のため、そしてどうやってその写真を手に入れ引き伸ばしてきたのかはちんぷんかんぷんだが、そこに写る顔に見覚えがあった。
「よりによってコレって…。」
「え?」
「またすごい厳選の仕方をしたね。」
「おぉ知ってんのかヒロヤ。さすがだな。」
花が咲いたように顔を綻ばせているところ申し訳ないが、相手が相手だけに喜んでばかりいられない。知っているだけで、知り合いな訳じゃないし。
そもそもこいつ、最近キョロキョロ何をしてるのかと思ったら、野球愛好会への入部部員をさがしてたのか。
よくやるよ。愛好会と言っても部室もグラウンドも部費もない、形ばかりを残させた名ばかりのものなのに。
「知ってるも何も有名人ですから、アツヒコ君は。」
「さすがアツヒコ君!」
「お前意味もわからずに言ってるだろw」
「彼って何がそんなに有名人なの?」
最近よくテツタに足止めされることが増え、俺がいつまでたっても教室に来ないときは、七瀬の方から迎えに来てくれるようになっていた。
今日も今日とて、七瀬はわざわざ足を運んで来てくれているわけで。
ちょっといい加減テツタに分をわきまえさせないといけないな。
「彼が有名なのは、主に学力的な意味でってとこかな。」
「頭いいんだ?」
「とりあえずうちなんかに来るぐらいなら、高校入る必要もない程度には。」
「…その言い方はあまりにもうちの高校がひどいみたいに聞こえるよ。」
「否定はしない。」
「ヒロヤ!お前詳しいなぁ。」
というか、その表現を通ってる人間目の前にしてするのはどうなのかな…なんて困った顔してる七瀬のことは少し隅に置いておこう。
及川 敦彦(オイカワ アツヒコ)。
高校選ぶときに、私立高かなんかの模試の上位で何度か見かけていたから覚えている。何より、上位にいるかと思えば名前さえ見当たらない時もあったり、成績のぶれが激しいなって興味本位で辿った名前の一つだから特に。
彼の何がそうさせているのか。本人に聞ける機会があれば良かったんだけど、生憎直接会う機会はなかった。
頭は単純に良さそうだけど、この顔の通り気難しい性格だったら好きになれそうにない。
「そうかそうか、アツヒコ君は頭がいいのか。」
「まぁそれに、二次だったから余計じゃない?」
「わっ!うちに二次って珍しいね…。うちってそもそも二次なんてあったんだ。」
「人員はいつでもカスカスだろうしね。まぁ彼は受験に失敗した典型的なパターンだろうよ。」
しかし驚いた顔もかわいらしいよ七瀬。というかやっぱり知らなかったかテツタめ。
「…で、そのアツヒコ君の何がお前を射止めたの?」
学力でもなく、当校の浮いた存在ってとこでもなく、何をもって勧誘しようなんて考えたのさ。
俺が尋ねると、テツタは爽やかに笑い、どや顔で答えた。
「顔っ!!!!!」
【即、帰宅。】
その後…
「だってピンと来たんだよ!!」
「『この顔にピンと来たら1●0番』じゃあるまいし、そういうのやめてくれる?」
「厳しい!」
「ほんとお前がまともな顔してるときって、碌なことしないね。」
「まともって…なんかその言い方だと、普段ダメな感じするじゃん。」
「だってダメじゃん。」
「!?」
「気づいてなかったの?ダメな顔してるからね、いつも。」
「顔って!ダメな顔っておかしくない?」
「当てはまりすぎて?」
「図星みたいな意味合いはないから。てか、ダメなのは決定事項!?」
「ピンと来たんだよ。」
「それは来ちゃダメ!」
(………この子達、仲いいなぁ。)