同棲への道のり

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つくづく思うんだけど、俺と幼馴染だからって傍にいてくれる君は女神だと思うんだよね。
だって自分で言うのもなんだけど、絶対嫌だよこんなのと始終一緒にいるなんて。


(どうしたら自分を好きになんてなれるのかな?)


そうしたら少しは、俺を好きだと言ってくれる君に近付くことが出来るだろうか。




面白いって何基準?






「ナナ、支度出来た?」


業後、隣のクラスを訪れるのが俺、並川浩也の習慣。

うちの担任柏木は知っての通り大雑把な奴なので、帰りのHRは大抵省略される。そんなんで許されるのか?許されてるんだから恐ろしい。


「なんでもヒロのクラスに面白い子が入ったんだってね。」


朗らかに迎えてくれたのは幼馴染の七瀬。
小さな時から一緒で、学力の差はあるものの諸事情により無事高校も同じとこに通うことになった。
クラスは離れてしまったけども、幸いにして隣のクラスなんで行き来に問題はない。毎放課来てもいいぐらいだ、いや行くね。

うちのクラスとは違い、終わったばかりの教室にはまだ人が多く残っていたが遠慮なく教室内に侵入しナナの机に腰掛ける。いつものことなので誰も気にかけまい。


さて本題の戻そう。
面白い子というのは、もしかしなくても先日来た転入生のことだろうか。


「面白い?面白いという表現はどうなのかな、別にお笑いを目指している様子もないし。ただ馬鹿なだけじゃない?」
「もうヒロったら。いじめたりしたら駄目だからね。」
「ダーイジョウブ、いじるぐらいにしとくから。」
「それも駄目。」


呆れる七瀬も可愛らしい。

本人に言うと高校男児に可愛いという表現はいかがなものかと説教を小一時間ほどされるので口には出さないが、いつも思っています。

俺よりも少し小柄な七瀬は窘めてきながらも、新入生より一ヶ月遅れてやってきた転入生の話題で他クラスが盛り上がっていることを教えてくれた。
そんな話をするぐらいなら、七瀬がいかに可愛いかを論争した方がよっぽどか有意義な時間が過ごせると思う。

まぁ争うことはないと思うけど、可愛いこと前提だから。特に制服をきちんと着ちゃってるとことか、指定鞄を律儀に使ってるとことか。


「それともあれかな無駄に目立つのは上背があるからか。いっそ縮めるか。」

「やめなさい。なんでもいつも元気いっぱいって感じで楽しそうな子なんだってね。」

「ナナが言うと激しい語弊が伴うなぁ。正確には、無駄に声が大きくて誰にも相手にされず一人騒いでるだけなんだけど。」

「そんな言い方しなくても…。転入早々派手な自己紹介したり、廊下で突然呻きだしたりってなんだか面白い子だとおもうけど。」

「インパクトはあるよね、面白いかは別として。」



まだ本人をその目で見たことのない七瀬は、誇張された噂ではしゃいでいるようだ。
確かに完全に間違えているわけではないが、捉え方が優し過ぎる。
実際は奴のやることなすこと全面的にクラスメイトは引き気味なんだよこれが。



こんな学校で「青春ごっこ」をしようと言われてついてくるような奴、そうそう見つかるわけがない。


しかし現実を知らないために、七瀬はやけに楽しそうに転入生の話をしている。七瀬は彼の事をどこまで知っているんだろうか。


(派手な自己紹介…、内容までは知らないかな?)


ちなみに俺はあの後、クラスメイトにより問題の自己紹介やその後の手あたり次第の勧誘事件を事細かく聞いた。

(あの子、やっぱ馬鹿だわ。)

それはどうでもいいんだけど(知ってたし。)、まさか七瀬まで奴にあらぬ期待を持ってしまわないかと心配になる。




そもそも、七瀬と渡瀬哲太を引き合わせる気は毛頭ない。




「ナナ、間違っても見つかるなよ。」


ピクリと反応して動きを止めた七瀬。

誰に?とか聞かないところが、さすが幼馴染。伊達にずっと一緒にいるわけじゃない。俺からの突拍子のない言動には慣れているようだ。


「見つかるなって、…どうしてそんなこと言うの?」


君は彼と行動を共にしているくせに?と無言の重圧を感じた、気がする。


お言葉の通り、渡瀬とはあれから一緒に行動することが増えた。懐かれたともいう。最近じゃクラスメイトに簡単にあしらわれてしまうので、俺のところへ逃げ込んでくるようになった。

一応訂正しておくが、決して俺はそれを受け入れているわけじゃありません。勝手に付きまとってくる、異常なまでにしつこい渡瀬が悪い。


「どうして僕は駄目なの?」


視線が痛い。

どうしてって、だってもしかしたら、あの野球バカに乗せられてしまうかもしれないから。七瀬は押しに弱いところがあるし、そんなところに現在進行形で付け込んでる幼馴染が目の前にいるわけだけど、それはまぁ今は置いとくとして。


「ダメとは言ってないよ。」
「さっきの命令口調だった。」
「…もうなんでもないデス。」
「なんでもなくないでしょ。」


実際、渡瀬の方が七瀬を知らず、渡瀬の方から七瀬に付きまとうことはないから、七瀬が渡瀬への興味をなくしてくれれば会うことはないと思う。

心境は複雑。

俺が感じたようにナナにも同じ想いを会って感じて欲しいという気持ち。
それに相反するように、平穏な高校生活のため会って欲しくないという気持ち。



会えば惹かれる。中学の頃、昇華しきれなかった想いが残っている限り。
俺と同じように。

(なんて自分勝手なことを思っているんだか。自分は良くてナナは駄目って、俺は子供か…)

そんなことを考えていたら隣から深い溜め息が聞こえてきた。


なんとなく無言になって、二人して静かになった教室から窓の外を眺めた。
窓の外では、少し前まで桜の花びらを散らしていた木々がそれを緑色の葉に変え風に揺られていた。



「もう夏だな。」



まだ五月。夏を感じるにはほんの少し時期が早い。でも俺がポロリと零した言葉を七瀬はその意味も一緒に拾い上げてくれる。


「うん、夏が来るね。」


また、という言葉を七瀬が飲み込んだのがわかった。


(また、あの頃と同じ夏が来る。)



「ナナ…帰ろうか。」
「うん。ごめんね待たせて。」


俺達は言いたい言葉も聞きたい言葉も互いに口に出さないまま学校を後にした。













「いいのかな?僕達このまま何もしないで。」


帰路を二人並んでのんびりと歩いていれば、先ほどのやりとりを思い出したように七瀬が呟いた。


「何言ってんの。夏と言えば海に山にアバンチュールが待っているよ。」
「とか言って、いつも暑がって外にまともに出ないのはどこの誰?」
「コンビニはオアシス。」
「本当にどうしようもないなぁヒロは…」


どうも最近俺と話しているナナは溜息ばかりついている気がする。
でも傍で困ったように笑っていてくれるナナがいればそれで俺は楽しいんだ。



「それよりいいの?教えてあげなくて。」


そんなナナから不意打ちを食らうとは思いもしなかった。


「え?」
「だから、転入生に教えてあげてもいいのに。どうしてヒロはすぐそういういじわるするのかな、いつもいつも…」


きゃいん。と犬の姿であったのであればぎゅっと縮こまっていたとこだ。

(ナナったらやっぱ気付いてらっしゃった…)

顔はにこにこ可愛らしいまま背後から説教オカンのオーラがもれ出している。


俺が動揺したため、わざと知らぬフリをしていたことを悟られたに違いない。「彼、必死なんでしょ?」と言われて、思わず笑ってしまった。


必死だから傍から見ていて面白いんじゃないか。


言っとくけど俺は嘘なんてついてない。事実うちの学校に野球部はないわけだし、俺はただ聞かれてないから答えてないだけだ。




「人が悪いよ。教えてあげるぐらいいいじゃない、部員一名の野球愛好会があること。」



楽しくてしょうがないとばかりにニヒルな笑いを浮かべる。

それはそれ、これはこれって言葉があるくらいなんだし、ちょっとぐらいイイと思うんだよね。


「そのうちね。」


俺が教えることはないだろうけど。

声を出して笑えば、なんともいえない顔をして転入生を不憫に思い溜息をつく七瀬がそこにいた。




 
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