真如の月

□1章5話
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「買出し?」
「そうなんだー。土方さんに業務用マヨ1ダースまた頼まれた。あの味覚何とかならないの?」

嫌そうに顔をしかめている漣伎さんと、それを見て苦笑している山崎。どうせまた山崎は偶然を装って監視のために漣伎さんについて行くつもりなんだろう。…気に食わねェ。そんなんだから漣伎さんに距離作られるんでィ、と悪態をつきながら、どうしようかと少し考える。漣伎さんは巾着袋を提げるだけの軽装で屯所の玄関をくぐっており、その隣には当たり前のように談笑する山崎。…やっぱり気に食わねェ。どうせ暇だ。屯所に居ても土方コノヤローに見つかったら疲れるだけ。考えるまでもないか。
俺は早速二人の跡をつけることにする。すぐに気がついた山崎がこっちを見てゲッとでも言いたげな顔をしていたが、漣伎さんが気づきそうになって慌てて誤魔化している。いい気味だと思ってニタリと笑った。気づいたら後でどうなるかわかってんだろうなァと思念を込めて山崎をガン見する。山崎の肩が縮こまった気がして、俺は機嫌よく風船ガムを口に放り込んだ。

「あっつー」
「隊服に夏用と冬用作るべきだよね」
「ホントホント…」

少し離れていても涼やかに鳴る漣伎さんの簪が聞こえる。決まって振り返る男共に、俺は毎日話せるんだぜィと自分でもくだらないと思う優越感に浸った。

「あ、甘味処…」

漣伎さんが道路脇に目を遣って足を止めた。透き通った寒天に色とりどりの砂糖菓子で彩られる和菓子のレプリカが店頭に並んでいる。じっとそれを見つめて揺れる瞳。

(よっぽど甘味好きなんでしょうかねィ…?)

眉尻が下がっているが、それだけ食べたいのだと思えないこともない。少しの違和感を覚えたが、同じように思ったのか山崎が漣伎さんを甘味処に誘う仕種をした。漣伎さんは大きく手を振って遠慮している。そんなヤツに遠慮する必要なんてねェのに、と思ううちに違和感は消えてしまう。


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