「だああぁぁぁ!!!」
夏の午後。野郎共の集まる屯所にしては高めの声が響く。今日も威勢良いねえなんて会話が繰り広げられているなんてことは露知らず(実際は忍から本人は聞き知っているのだが)、一週間前に女中入りした漣伎ちゃんが縁側を雑巾がけしている。 俺はと言うと、副長の言いつけ通り、このクソ暑い中天井裏でそんな彼女を観察していた。間違ってはならない。「監察」ではないのだ。ただ、観察していた。どうやらまだ漣伎ちゃんのことを一切信用していない副長は、いつボロが出るかと楽しみにしている節があるようだ。あの極悪人さながらの笑みを思い出し、一瞬だが蒸し暑さが失せる。
肝心の漣伎ちゃんだが、彼女は完全に真選組に溶け込んでいた。一週間でのその所業。間者だったとしたら末恐ろしい。初日のよくわからない笑みを貼り付かせることもなくなり、一部の隊士とは名前で呼び合って親しく話を交わすようにもなっていた。自惚れでなければ、自分もその一人だ。
「精が出ますねィ漣伎さん」 「総悟君! またサボり?」
あと隊長も。悔しいことに漣伎ちゃんは沖田隊長とのほうが俺よりも親しい気がする。俺と話すときは、微妙な壁だったり返事の前にちょっとした間があったりするのに、沖田隊長とは完全に打ち解けているような。過敏だろうか。いやいや、監察の俺がそんな小さなことで間違うわけが…ないとは言い切れない。あの謎めいた笑みが蘇る。 もしかしたら、こうしてのほほんと眼下で笑っている彼女は今も偽の姿だっていう可能性だってあるのだ。だから副長は俺をこの役に置いている。でも信じたくない。彼女が来てから屯所が綺麗になったし、ご飯が美味しくなったし、鍛錬に出る隊士たちの態度が真面目になったと隊長格皆が言っている。
ほだされているのだろうか。甘いだろうか。
いけませんかィとわざわざしゃがんで上目遣いをする沖田隊長の頭をわしゃわしゃと撫で回している漣伎ちゃん。全然、なんて答えちゃって、副長に見つかったら二人ともどうなるか――
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