SIREN

□今日の宮田さんと牧野さん 8/5
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改札を抜け、屋外へ出る。
都会独特の生温い風が頬を撫で、宮田は無意識に眉を顰めた。

「み、宮田さん!」

背後から声をかけられ振り向くと、今までの人生で他人の倍ほど見てきたであろう、見慣れた顔が目に入った。
眉間の皺がより深くなる。
すぐに向き直って歩き出しながら、宮田は返答した。

「何ですか」

いつもは黒衣に身を包んでいる牧野だが、今日はシャツにジーンズのカジュアルな服装。
首から下げたマナ字架だけが、いつもの彼を連想させるとともに、違和感を感じさせる。

「あのっ…都会って、どこもこんなに、人が多いんですか」

「…そうですね。言うまでもありませんが、羽生蛇村とは比べものになりませんよ」

「は、はぁ…」

牧野の不安げな表情がより色濃くなったが、羽生蛇村の箱入り求導師さまには、これくらいの刺激もあっていいだろうと宮田は思っている。

「牧野さんにはわからないと思いますが、俺はできることならずっとここに居たいと思ってます」

「宮田さん…」

「教会、医院、神代のしきたり」

「……」

「ここには村の束縛、俺の果たすべき役目がない。牧野さんだってそうでしょう」

「……」

駅方面へ向かう人々の波に逆らい歩きながら、宮田は続けた。

「もしかしたら…俺たちはここでなら、本来の双子に戻れるのかも…しれませんね」

そんなことあり得ないけれど。
自分で口にしたことながら、馬鹿らしいにも程があるとつくづく思う。

「それでも、もし…牧野さんがそれでもいいと言うなら、俺は…」

くだらないことを言っていると、呆れているだろうか。
それとも、自分と同じ顔を持つ彼は、自分と同じ思いをも抱くのだろうか。
反応が気になって、宮田は振り返った。





「……牧野の馬鹿野郎……」

さっきまですぐ後ろを歩いていた彼の姿が、忽然と消えている。
かなり先の方に、人波にのまれて進めずにいる様子が見てとれた。





歩道の脇に腰を下ろし、煙草を2本ほどふかしたところで、ようやっとマナ字架の首飾りが確認できた。

「お、お待たせしました…」

よれたシャツと上がった呼吸が、彼の苦労を思わせる。

「とことん期待を裏切りますね、あなたは」

煙草の火をもみ消し、立ち上がる。

「すみません…こういうところを歩くの、本当に初めてで」

宮田さんはすごいですね、と感心している牧野に、そういうことじゃない、と宮田は心の中で呟いた。

「行きますよ、牧野さん」

「はい、宮田さん」

歩き出した途端、ぐっと後ろに引っ張られる力を感じて見やると、大の男が自分のシャツの背をつまんでいた。

「今度ははぐれないようにと思って」

「お願いだからやめてください」

それなら首に紐でも繋いでやろうか。
加虐傾向のある宮田は内心そう思ったが、流石に想像できたものではなかった。

「あなたはこっち」

しょうがなく、牧野の腕をひいて自分の隣に立たせた。

「俺が見えるところに居てください」

「…はい」

並んで歩くのなんて、何年ぶりだろうか。
子供のとき以来一度もなかったかもしれない…などと思いながらふと隣を見ると、何だか嬉しそうな様子。
いつも不安そうにびくついている牧野ばかりを見ていた宮田にとっては、気味の悪ささえ感じられた。

「宮田さん」

「何ですか」

「ここに滞在している間だけでいいので、私と双子の兄弟で居てもらえませんか」





宮田は自嘲気味に口角を上げた。
馬鹿なところだけは、本当に似ている。









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