赤紐

□Jast like a twinkle star
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それの輝き様といったら。



 天辺も近い深夜、私は漸く帰路についていた。
 身体が重い。この頃はイシュヴァールの内乱も悪化し、特に忙しく休む暇など全くと言って良い程ない。これでは内乱を鎮圧する前に、皆過労で死ぬのではないだろうか。

 ああ、疲れとストレスで胃に穴が空きそうだ。
 手当たり次第に何かを爆発させたい。

 私の意識は朦朧とし始め、常人としては極めて危ない思考をしていた。
 次に目についたモノを爆発させよう、と決め、薄暗い道をひたすら歩いた。
 すると、他のモノよりも遥かに大きく黒い物体が見えた。それは道の端で不自然な丸さを帯びている。
 私は嬉々としてそれを掴んだ。重すぎて運べない様ならここでやってしまおう。後の事はどうにでもなる。そう考えながら被せてあった布を取り払った。
 途端に見えたのは猫の様な目付きの悪い眼。
 しかし夜空の様に美しいそれは、驚いた様に目を瞬かせる。
 こちらが怯んでしまいそうな程、真っ直ぐな瞳。

「……こんな所で、何を?」

 爆発させようと思っていたモノが、まさか人だとは考えもつかなかった(だって道端にあるんですよ?)。
 すっかり呆気に取られた私の頭からは目的など飛び、目の前の彼女に訊ねた。
 小さな口が開き、真っ赤な舌が覗く。

「い、……いえで」

 ひどく訛りのある、それも語尾の上がった疑問形で彼女は言った。

「家出?何故またそんな事を」

 少女の歳は恐らく10歳にも満たないだろう。まだ幼い子供がこんな時間まで家出しているとは珍しい。普通は恐くなって「やっぱり帰る」と、未遂で終わるだろうに。

「もう、あんないえはいや」

 それでも言う事は皆同じだ。家が嫌い。帰りたくない。そう言って家出をする。
 しかし彼女の言葉には、ただの突発的なものとは違い、深く長い考えがあるようだった。

「こんな真夜中に道端で話すのも何ですから、私の家に行きましょう」

 取り敢えず、どんな理由であっても家出娘は家に返さなければならない。少女をなんとか納得させて、一晩泊めて、それから家に帰らせよう。そう考えて、私は未だ地に尻をついたままの少女に手を差し伸べた。

「……はい、すみません」

 少女はそう言って私の手を掴む。
 私も色白な方だが、彼女もはっとする様な白い手をしていた。

「荷物は?」

「わたしには、じゆうなしょゆうぶつなんてありません」

 ずいぶんと大人びた口のきき方をする子供だ。
 私は身一つの少女と共に家へと歩き出した。


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