Plough

□アイノウタ
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 とても珍しい事だった。
 リュウガが、歌っていた。

 歌っていた、と言っても声を張り上げる訳ではなく、ただ漠然とした歌詞を緩やかなメロディに乗せて口ずさんでいる程度だ。

 初めて聞く恋人の歌声は美しく流れ、ラオウの耳に、脳に、滑り込んでくる。

 窓の桟に腕を付き、見ているのは下に広がる荒野か、その先にある何処かか、若しくは――。


「……うぬが歌う事もあるとは、思いもしなかったな」


 ラオウはリュウガの横に立ち、同じ様に遠くを見ながら口を開いた。


「そうでしょうか?……ああでも、貴方の前で歌ったのは初めてかもしれませんね」

「俺以外に歌ってみせたのか」


 自分と出会ってからよりも、出会う前の方が圧倒的に長い。自分以外の誰かにその美声を聞かせたのも仕方無い事だろうが、それでもやはり気分は良くなかった。ラオウが棘を含ませて言うと、リュウガは可笑しそうに微笑んだ。


「ユリアが幼い頃にですよ」

「む、……」


 未だクスクスと笑い続けるリュウガに、ラオウは僅かに頬を赤らめた。


「本当に可愛い方ですね、貴方は。ふふっ」
「う、うるさい!何時まで笑っておる!」


 ラオウが恥ずかしさを振り払うかの様に言うと、リュウガは申し訳ありません、とやはりまだ少し笑いながら目尻に溜まった笑い涙を指で拭った。


「しかし、良いのですか?」


 一転した真剣な表情。不安げに見える眉間の皺にラオウは気付いた。


「何がだ」


 彼もまたリュウガと同じ様に真剣な様子で訊く。

 真っ直ぐ見つめられたリュウガは気恥ずかしい、というよりも気まずいようで、少し視線をさ迷わせるとすぐに俯いた。その口からは、彼らしくない弱々しい声が零れる。


「……ユリアでなく、私で」


 何故主が妹でなく自分を選んだのかなど解りもしない事だ。だからこそ時に酷く不安になる。

 リュウガの様子と言葉に、今度はラオウが可笑しそうに微笑む。


「ふ、うぬはその様な詰まらぬ事で悩んでおったのか、ふ、ふはは」

「そんな事だなんて言わないで下さい!笑うのもやめてください!」


 リュウガは顔を赤くしてラオウに吠えた。それでもなおラオウは笑っている。真っ赤な顔で怒られても可愛らしいだけであった。


 笑いも治まったラオウは先程のリュウガと同じ様に目尻に溜まった笑い涙を拭うと、微笑んだ顔はそのままでリュウガに訊いた。


「ならば、何故うぬは俺を選んだ?」


 それは……、とリュウガは言葉に詰まる。選んだ理由など一つだ。



「貴方を愛しているからです」



 リュウガの言葉にラオウは満足そうに、幸せそうに頷き、リュウガの肩に手を回してそっと抱き寄せた。


「……貴方の口からも、聞きたい」


 リュウガは愛しい恋人を見上げ、囁く。ラオウもリュウガを見下ろし、また優しく笑ってみせた。


「二度は言わぬぞ」


 ラオウの指がリュウガの頬を撫でる。リュウガはゆっくりと目を閉じた。



「愛している」



 唇が触れ合う寸前に紡がれた小さな言葉は、薄暗い曇り空などまるで無意味だとでも言う様に、甘く、溶けていった。






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水玉様、大変お待たせしました!
支離滅裂で申し訳ありません……!
愛は無駄に詰め込んであります!
みら―.からの生温かい愛の相互記念、お受け取り下さい←

相互ありがとうございました(^^)

100605

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