黄金の契約 月光の宝冠


□序章
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「契約は交わされた」

 朗々とした声が大広間のひどく高い天井を響き抜けた。
 精白な白を基調に、高度な技術を必要とする繊細な装飾を惜しげもなく施された大広間。

 その中央、引きずるほどもある黄金の髪と、同色の瞳を持ったまだ幼いながらも美しい少女。その少女が発したとは思えないほどの神々しさと厳格さをまとった声であった。

 誓いの朗々さとは裏腹に、広間に集まっている数十人の者達の間にはなんともいえない、疑念と戸惑いを含んだ雰囲気が漂う。
 しかし、含むものはあっても誰一人として口を開くものはいなかった。そんな雰囲気ではなかった、そのはずだった。

「世界樹よ、この契約に天秤と月の加護を」

 渦巻く沈黙を一閃する、精悍な壮年の男の声が祝詞を唱えた。
 大広間の一番奥に位置する深紅に白金の細工を施した豪奢な椅子に男は深々と座り、ひどく楽しそうに口角をくっと上げ不敵に笑っていた。

 男が座る椅子の後ろには、大広間の天井まで届くほど巨大で彩り鮮やかなステンドグラスで、夜に浮かぶ月を背に鳥と狼が描かれていた。
 鳥と狼はこの国の象徴であり、王族の象徴だ。それを背にすることが出来るのはこの国で最も尊い存在だけである。
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