Juliet castle

□Baseball boy
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窓から差し込む柔らかな日の光を感じながらちょうど二階にさしかかったところで、自分の足音と誰かのそれが反響する。

相手はどうやら階段を下りてくるらしく、近づく足音で自分とだんだん距離がつまるのが分かった。

「おーい!」

後ろを振り返ると、上の階の三階から声を発した人物を視界にとらえた。

逆光ではっきりとは分からないが黒髪短髪の少年が首にタオルをかけている。

黒のアンダーシャツということは・・・。

自分のよく知る野球部の姿が思い浮かぶ。

「あの、質問なンですけど、」

「一年生の階ってドコでしたっけ?」

うっかり忘れちゃって、と少しはにかんだ笑顔を見せる。




-------どきっ------




「え、っと、一年は、ご、五階ですよ!」

唐突な問いかけにやっとで言葉を紡ぎ出す。

今一瞬だけ、この少年に見入っていた。

なぜだろう。

俺のそんな様子に気づくこともなく、彼は

「ありがとうございます!助かりました」

と短く礼を言って上階へ引き返してしまった。

人に『ありがとう』と言われたのは久し振りで、嬉しさに思わず体の緊張が解ける。

一年の階がどこにあるか教えただけなんだけど。

握り締めた右手の中の紙切れが手汗の水分でふやけてしまっていた。

胸が少し苦しいなと思ったら、心臓の鼓動が速くなっている。

単に緊張からくる『どきどき』とは違うこの新しい感覚をどう呼ぶべきか自分には分からない。

ただ、名前も聞かなかったさっきの少年にまた会いたいと思った。
今度会うときは自分が『ありがとう』と言いたい。


そう思いながら、階段をゆっくりと下りた。

-fin-
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