Juliet castle
□S.i.g.n
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「利央、もう鍵閉めるぞ」
おーい。
準太が呼びかけるが、利央は返事をしない。
「利央?」
ロッカーにもたれたまま、眠ってしまったらしい。
「どーすっかな・・・」
肩を揺すってみる。
・
・
・
・
が。
「うぅー」と呻くばかり。
今度は頬をつねってみる。
・
・
・
・
が。
顔を顰めるだけで利央の目は醒めそうにない。
「どーすっかなァ」
他には・・・・。
あ、あれなら。
「利央、チャック開いてる!」
耳元で囁く。
「へっ!うっそおぉ!」
ぱっと目を開け慌てて利央は社会の窓を確かめるが、それは開いているはずがなく。
次の瞬間に首を動かして、至近距離の準太の顔とぶつける。
ごつん。
「っ痛ェよお前・・・」
「いたっ!」
「それにしても、こんな汗臭ェところでよく寝るよなあ」
準太が立ち上がって、スポーツバッグを手に取る。
利央もそれにならう。
「だって俺、今日も練習ちゃあんと頑張りましたから」
「自慢するようなことじゃねえだろ」
野球好きなやつだって他のスポーツやるやつだって、練習はちゃんとやるんだよ。
準太はさらっと言いのけ部室を出て扉を閉める。
そりゃ、そうなんスけど。
そう言いたいのをぐっとこらえる利央。
「な、利央くん?」
「うっわ準サーン、それなんかキモい!」
「キモい・・・?!」
準太はショックを受けてうなだれながら、部室の鍵を閉めた。
「まだ日が暮れないな」
午後のピークを過ぎた日差しなのに、まだ強く肌を焼く。
まだ沈むまで時間がかかりそうだ。
「え?」
他愛ない会話を交わしながらグラウンド脇の砂利道を歩いて行く。
「これから夏になるにつれて、太陽が照る時間が増えるだろ」
「そ、そっすよね」
(コイツ、ちゃんと分かってんのかな。)
準太は疑問に思うが口にはしなかった。
(知らなかった・・・中学で習ったような気もするけど。)
案の定利央は分かっていなかったのである。
駐輪場で利央は自分の自転車のロックを外してそれに跨る。
準太も離れた場所から自分のを持ってくる。
「じゅーんサン、かーえりーましょー♪」
へへ、と利央は屈託なく笑い。
「ったくガキみてえに」
口ではそう言いながら準太も優しい表情を浮かべて。
眩しい初夏の日差しの中を、二人は仲良く自転車を漕いで行く。