Juliet castle

□S.i.g.n
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利央は左肩にスポーツバッグをかけたまま見とれていた。
ふと視線を空へとむけると、トパーズの澄んだ青が一面に広がっていたのである。
今日の練習はグラウンドの都合上午後からで、先程家を出てきたばかり。
毎朝この使い慣れた道を漕いできたけれどこんな空の表情に気づいたのは初めてだった。
頭上をぐるりと見渡しても雲一つみつからない。


ずる、とかなりの重量のスポーツバッグが肩から落ちた。
途端に遠のいていた感覚が甦る。
うざったいセミの鳴き声。
頬伝う汗。
アスファルトからシューズ越しに伝わる熱。
現実が利央を引き戻す。

(空なんかに、気を取られてる場合じゃないな)

跨っている自転車のハンドルをぎゅっと握りしめ、桐青高校までの残り僅かな道のりを駆けていく。

-----利央にとって高校一年の夏がはやくも訪れようとしていた。
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