anoter

□日常
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何の歌だろう。

思い付きの即興で作ったようなデタラメな鼻唄を歌いながらソファに近づいてくるココに、本越しに視線を送る。
気分良さげに鼻唄を歌う浮かれ顔は頭が悪そうに見える。
スプリングを軋ませて隣に座ってくるココが話を聞いてほしそうな顔をしてこちらを見てくるのを、気付かないふりをした。
どうせ大したことでも無いのだろう。
今は本の世界に浸っていたい。
そんな思いも無視して、痺れを切らしたココが肩に腕を回してきた。

「ナッツ、」
「何だ。」

鬱陶しげなのが言葉に表れてしまった。
気付いたココが泣きそうな顔をする。

「…ナッツが冷たい」

冷たくしているわけではないのだ。
ココのタイミングが悪い。

「話くらい良いだろ、」

今にも泣き出さんばかりの歪んだ顔を近づけてくる。

「邪魔。」

抱きついてくるのを引き剥がす。
コミュニケーション過多なのはココの短所だろう。
足で押し返してソファの端に追いやった。
本気で涙目になっているココを意識下から外し、再び読書に戻る。

物語も佳境に入った。
感動のラストシーンに向けて主人公の男女が手を取り合って、



…どうしたのだろう。
突如、手元から本が消え去り、見つめる先にはテーブルがある。

「ナッツ、」

さっきまで手にしていたハードカバーの小説を片手に、口を尖らせたココが此方を睨んでいた。
目の赤さが迫力を半減させているのに気付いていないのだろうか。

「ココ、返せ。」
「いやだ、」

子供みたいなすね方をする。
溜め息を隠す気にもなれない。

「ココ、」

返せ、と手を差し出す。
ココは、しぶしぶといったように本を持つ手を出した。

瞬間、世界が反転する。

現状を把握するのに数秒かかった。

「ココ、」

本が床に落ちている。
栞を挟んでいないのに、と腕を掴んでいるココを睨む。
のし掛かるようにして体重をかけてくるココを押し退けようにも、片手が塞がっていて出来ない。

「ココ!」

ココの憎らしいほどの笑みに怒鳴るが、聞き流される。

「ナッツがかまってくれないのが悪い、」

自己中心的な言い分だ。
呆れて物も言えない。

それを肯定にとったのか、髪に触れてくる。
首を振って拒むと、髪に触れていた手が首元まで降りてきた。
首筋をなぞられ、鳥肌が立つ。
それを見て愉快そうに笑うのだ。
ふざけるのも大概にしろ、と口を開きかけたところを塞がれた。

かさついた唇に噛みついてやる。

慌てて顔を離すココの腹に蹴りを入れて、問答無用に引き剥がした。

腹を抱えて痛がるココが涙目で何かを訴えてくるのを無視して、席をたつ。

「ばか、」

泣いたって知るものか、同情の余地はない。




ナッツの去って行ったドアの向こうを未練たらたらの瞳で見つめるココを覗き見て、溜め息が溢れるのを押さえきれないのぞみの姿があったとか。




*
ギャグ・・・オチ切れてませんが・・


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