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□レイニーブルー
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雨あがりの午後。


人がまばらな放課のカフェテラスは適度な静寂を保っていて、読書に興じるには最適だ。

紅茶にガムシロップを注ぐ。
透明な蜜が滲む琥珀色を見つめる。
グラスに氷が当たって涼しげな音をたてた。

遠くから合唱部の揃った歌声が聞こえる。
美しいメロディラインに耳を傾けて読みかけのハードカバーの小説を開く。

いつもならすぐに本の世界観に入っていけるのに、いくら文字を追っても内容が脳に入って来ない。
いくら集中しようとしても気が入らなかった。
小さく吐息をこぼしす。

「7回目、」

突然に降ってきた声に顔を上げれば、見慣れた微笑みがそこにあった。
同席いいかしら、と断りを入れて向かいの席に座るこまちはアイスココアのグラスをコースターに丁寧に置いた。

「何が?」

「溜め息よ、今日7回目」

ストローをくわえてココアを一口飲み込んだこまちは、何がおかしいのか鈴のような声で笑う。
怪訝なのが表情に出たのか、こまちは笑うのをやめてまた一口、ココアを含んだ。

「不貞腐れた顔なんて可愛くないわよ、」
「…もとからだわ。」

自分でもひねくれた返答だと思った。
こまちも苦笑を禁じ得ず、困ったわね、と呟いた。

「貴女がそんなつまらなそうな顔していると不安になってしまうわ」

グラスの周りについた水滴を綺麗な指でつつきながら言うこまちは、上目使いにこちらに視線を送った。
エメラルドの瞳が、きれいだと思った。

「かれん、」

もしかしたら、こまちの声には人を安心させる響きが含まれているのかもしれない。
名前を呼ばれれば、くさくさしていた気分が晴れていく。

「こまち、」

こまちの手に触れる。
その上に置かれるこまちのもう一方の手の暖かさに口許が綻ぶ。

「ごめんなさい、こまち。」

いいのよ、という意思が瞳から読み取れて安堵する。

「誰にだってアンニュイな気分になる時はあるもの、」

ただね、と一言置いて、微笑んだ。

「一人で考え込まないで欲しいの。」

ココアはきっと溶けた氷のせいで、味が薄まってしまっただろうに微笑みは崩さず、一口のどを通す。

「だって、貴女のことが大切なんだもの」



ピアノ伴奏の最後の一音を風が届ける。
髪を揺らす湿気を含んだ風が心地いい。
二人で頼んだショートケーキの甘さに。

「大好きよ」





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