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□募る思い
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秋雨前線は一向に過ぎる気配はなく、じめじめとした天気が続いている。
厚い雲に覆われているために日中も薄暗い。
自然と気分も滅入ってくる。座学しかない日などは特に、だ。
三郎はだらだらと只長いだけの教師の薀蓄を右から左へ聞き流して窓の外を見やった。
風はなく、糸の様に筋となって空から地上へ叩き付けられていく雫に「アーメン」と口の中で唱える。
アンニュイな気分になっている所に、後方から丸めた紙が飛んできて、呆けていた三郎の横顔に命中する。
紙屑を拾い、飛んできた方を見る。
「鉢谷、余所見するな!」
教師の怒鳴り声に急に興ざめした三郎は、紙屑は誰の仕業か、犯人見つけたらぶっ殺す、と心に誓い、机に突っ伏した。
突っ伏したまま前方に目をやると一生懸命板書きを写している雷蔵の姿が映った。
視線に気が付いたのか、雷蔵がこちらを向いて、口だけで「真面目にやれ!」と笑う。
たったそれだけで、三郎はアンニュイな気持ちから脱することができるのである。
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