anoter

□殺意
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俺が生徒会長になったその日、にやけた面をした、全てが嘘くさい男が言った。

「おめでとうございます、」

小さく拍手なんかをして、会長席に座る俺に微笑みかける。
本当にめでたいと思っているのか定かではない。
俺はこいつの笑顔しか見たことが無いからだ。
人は、笑顔以外の表情(例えば泣き顔)などを見ないとそいつを信用する事を本能が拒むらしい。
胡散臭い機関とやらに所属する胡散臭い野郎の笑顔の鉄仮面を壊してやりたい、と思っていた。

「何か欲しいものはありますか?」

古泉はそう言って小首を傾げた。
どういう事か説明を求めると、

「機関からお礼として何か貴方に差し上げる、と言うことです」

と穏やかに言う。
何でも良いのか、と訊ねると小さく頷いた。

「何か宜しいですか?」

「お前。」

俺がそう言って、一瞬古泉が怯んだように見えたのは気のせいだろうか。
次の瞬間にはいつもの笑みを此方に向けていた。

「畏まりました。」

そういって膝をついた。
右手を左胸に当てて芝居くさい忠誠の形を演じてみせる。
腸に熱いものが込み上げてくる感覚に血が脳に上った。

「何でもお申し付け下さい、」

ただし、凉宮さんの機嫌を損ねるような事以外でお願いします。
そう言って苦笑するその顔を殴ってやろうかと思った。
その整った笑顔を俺が壊してやる。

胸ぐらを掴んで古泉の背の割りに軽い身体を引き寄せた。

「床を舐めろ。」

何だって良かった。
古泉の屈辱に歪んだ顔や、憤怒の表情を見てみたかった。
あの笑みを取り拐った、古泉の本性を見てみたかったのだ。

「…、」

少しの間。
その後に見せた古泉の表情は、

「…っ、」

ひどく穏やかな笑みだった。

「仰せの通りに、」

そう恭しく頭を下げて、床に四つん這いになった。
微かに動く頭で、本当に舐めているのがわかる。







本気で人を殺そうと思ったのは初めてだ。



*
そしてSに目覚めていく会長。




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