anoter

□さくら
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嘘がつけない君だった。
僕らは君のそういうところが好きだった。
卒業が迫り、実感が微かに沸いてくるようになった頃だ。
卒業後も変わらず僕らは僕らのまま一緒にいられると信じていたのに、君は僕らの誰にも相談せず、全てを決めてしまった。
その事を聞いたのは君からではなく、君の担任の先生からだった。
最近君が放課後になるとすぐ帰ってしまうのは、僕らにその事を知られないためだったのだろう。
君は嘘がつけないからね。

君は東京に行くのだ。
僕らを置いて、一人で東京へ行ってしまうのだ。

僕らは君本人の口から聞きたかった。
君は、僕らに何も言わずに行くつもりだったのか。

僕らは込み上げる憤りを発散させる術を持たず、心地の悪い苛立ちを抱えたまま、君から距離を置いた。
僕は、その状態にやきもきしていたのだ。
思わず、放課後になってそそくさと帰り支度をする君を引き留めてしまった。
その時の、君の「しまった!」という顔、忘れないよ。

僕は君を連れて校舎の裏にある丘の上へやってきた。
この場所は見晴らしがよくて、僕らは気に入っていた。たまに授業をふけて遊びに来た場所でもある。
君は眼下に見える街並みを、黙って眺めた。
静かに時が流れる。
久しぶりの感覚だ。
二人の間の気まずい空気も溶けた頃、ようやく君が口を開いた。

「ごめん。」

一言。
それだけ呟いて、再び沈黙の時が流れる。
僕も、「うん。」
という素っ気ない一言しか返せなかった。
何にも、言えなかった。





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